速く走るのに、力はいらない?|“脱力”がスピードを生む理由とは
- 森 雅昭(スポーツ家庭教師/かけっこ走り方教室/体操教室枚方市)
- 22 分前
- 読了時間: 4分
速く走るのに、力はいらない?|“脱力”がスピードを生む理由とは
「もっと速く走るには、もっと強く地面を蹴ればいいんじゃないか」
「腕を力いっぱい振った方がスピードが出る」
そんなふうに思っていませんか?
実はその考え方、速く走るためには逆効果になることもあるんです。
今回のテーマは、「速く走るのに、力はいらない」という、ちょっと不思議な真実について。トップスプリンターたちの走りや、運動学の観点から、“脱力”がいかにスピードを生み出すのかをわかりやすく解説します。
なぜ「力いっぱい走る」と速くならないのか?
多くの子どもや初心者が、「もっと速く!」と思ったとき、腕に力を入れ、肩に力が入り、足を強く踏み込もうとします。
しかし、これは体の動きをぎこちなくし、かえってスピードを落としてしまう原因になります。
たとえば…
• 腕に力が入りすぎると肩が上がり、リズムが乱れる
• 足に力が入りすぎると太ももやふくらはぎが固まり、動きが遅くなる
• 全身が力んでしまい、エネルギーのロスが大きくなる
実際、トップスプリンターの走りをスロー映像で見ると、「まるで力が入っていないかのように、しなやかに」走っていますよね。これは**筋力が弱いのではなく、必要な部分にだけ最小限の力を使い、あとはうまく“抜いている”**からです。
「脱力」が速さを生む3つの理由
① 重力と反発力をうまく使える
人は地面を蹴る力だけで走っているのではありません。地面に接地したときに生まれる**反発力(床反力)**をうまく使うことで、より少ない力で大きなスピードを生み出すことができます。
しかし、身体が力んで硬くなっていると、この反発力を吸収してしまい、前へ進む推進力として使えなくなります。
脱力して関節をしなやかに保っていることで、地面からの反発を上手に使えるようになるのです。
② 腕振りのリズムがスムーズになる
腕は「振る」のではなく、「自然に前後に揺れる」イメージが正解。
肩やひじに力を入れると、動きが詰まり、結果として脚の回転リズムも乱れてしまいます。
一流のスプリンターは、**脱力して腕を“振っていないように振っている”**のです。
これにより、身体全体のバランスが取れ、テンポよく脚が前に出ていきます。
③ 動きの切り替えが速くなる
走るという動作は、**「踏み込む」→「地面を離れる」→「足を引き上げる」→「次の一歩へ」**という流れでできています。
この一連の動きをスムーズに切り替えるには、体がしなやかに動くことが不可欠。
力んで筋肉が固まっていると、この切り替えが遅くなり、「どっしりした走り」になります。
脱力することで、バネのように「反射的な切り替え」が可能となり、スピードアップにつながります。
トップ選手も実践している「脱力トレーニング」
実際、100m世界記録保持者のウサイン・ボルト選手も「リラックスして走ることの大切さ」をインタビューで何度も語っています。彼の走りを見ると、あれほどのスピードで走っているのに、腕も肩もふわっと柔らかく動いていますよね。
また、日本の桐生祥秀選手やサニブラウン選手も、スタートから加速にかけては力を抜きながらピッチを上げることを大切にしています。
じゃあ、筋トレは意味がないの?
「じゃあ、筋肉はいらないの?」と思うかもしれませんが、筋力は必要です。ただし、「力を入れる」ためではなく、“力をコントロールするため”に必要なのです。
強い筋肉があればこそ、短い接地時間で強い反発を受け取り、素早く体を前に送り出すことができます。しかし、その筋肉を固く使ってしまっては、逆効果。
筋力は「しなやかに使う」「一瞬だけ発揮してすぐ抜く」もの。脱力と筋力はセットで活かされるということです。
実践!脱力を意識する簡単ドリル3選
最後に、誰でも今日からできる“脱力”を意識したトレーニングを紹介します。
① ダラ〜ン腕振りドリル
両肩の力を抜いて、腕をだらんと下げて歩く→走る。リラックス感を体で覚える。
② スキップ走
軽いスキップで前に進む感覚をつかむ。力まずに、リズム良くバネを使う感覚を養える。
③ 脱力→一瞬のキック
スタート姿勢から一瞬だけ「パンッ」と蹴ってすぐ脱力。キックの瞬間と“抜く”感覚を交互に練習。
まとめ|速さは「力」ではなく「コントロール」
「速く走るには、もっと力を入れないと」――
そう思っていた人は、今日から考え方を変えてみましょう。
本当に速く走るためには、「いかに力を抜くか」「いかに反発を受け取るか」がカギになります。
速さとは、力任せではなく、力の“抜き方”を知ることから生まれるのです。
だからこそ、トップアスリートたちは筋トレだけでなく、「脱力」や「バランス」「リズム」も大切にしているのです。
ぜひ、次に走るときは「力を抜いて、スーッと前へ」――そんなイメージで走ってみてくださいね!
Comments