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子どもの体幹が弱くなったのはなぜ?現代社会が生む“見えない運動不足”

  • 執筆者の写真: 森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
    森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
  • 5月2日
  • 読了時間: 5分

最近の子どもたちは、転びやすかったり、姿勢が崩れやすかったり、長く座っていられなかったりする様子がよく見られます。これらの現象の裏には、「体幹の弱さ」が関係していると考えられています。


体幹とは、いわゆる「お腹まわりの筋肉」というだけでなく、胴体を安定させて四肢をスムーズに動かすための中心軸の力。しかし、なぜ今の子どもたちはこの体幹が弱くなってしまったのでしょうか? この記事では、現代の生活や教育、遊びの変化など、いくつかの観点からその理由を掘り下げていきます。


1. 運動の“総量”が圧倒的に足りていない


まず、大きな要因として「運動量の減少」が挙げられます。


一昔前は、放課後や休日になると子どもたちは公園や空き地に集まり、鬼ごっこやかけっこをして遊んでいました。地面の傾き、でこぼこ道、木登りなど、自然な地形の中での遊びは、体幹を使う動作の宝庫です。


しかし、今の子どもたちは室内で過ごす時間が増え、外遊びの頻度が激減しています。さらに、都市化が進んだことで安全に遊べる場所が減り、保護者も「外で自由に遊ばせにくい」と感じるようになりました。


結果として、日々の生活の中で無意識に行っていた全身運動の機会が激減し、姿勢を支えるための基礎的な筋力や感覚の発達が追いつかない子どもが増えているのです。


2. 動かない時間が体幹の成長を妨げる


座っている姿勢が崩れる子どもに対して「ちゃんと背筋を伸ばしなさい」と注意したことがある方も多いでしょう。しかし、それ以前に、長時間座り続けること自体が、発達途中の子どもの体には大きな負担となります。


現在の教育現場では、小学校低学年から机に長時間向かい、静かに話を聞くことが求められます。さらに、家庭でも宿題や学習時間、習い事などが重なり、子どもが体を大きく動かす機会は減る一方です。


姿勢保持には持続的な筋力が必要であり、それを支えているのがまさに体幹です。動かない=姿勢を維持する筋力を使う機会がないということになり、結果として「姿勢が崩れやすい」「背中が丸くなる」といった状態につながるのです。


3. デジタル環境がもたらす体のアンバランス


近年は、スマホやタブレット、ゲーム機などの利用が日常の中に入り込んでいます。1日のうち何時間も、座ったまま画面を見ている子も少なくありません。


この状態では、体の前面ばかりが縮こまり、背中の筋肉が使われなくなります。また、目線が下に落ち、首や肩に負担がかかり続けることで、姿勢が乱れるだけでなく、体幹の中心である腹筋や背筋が使われない時間が圧倒的に増えるのです。


つまり、見た目には「静かにしている」ようでも、実は体幹の筋力がどんどん衰えている状態が進行しているといえるでしょう。


4. 遊びの内容の変化と感覚発達の遅れ


かつての子どもたちの遊びは、体のあちこちを刺激するものでした。


ジャングルジムを登る、坂道を転がる、バランスの悪い場所を歩く、木にぶら下がる…こうした動きの中で、体は自然とバランスをとり、筋肉や神経が連動していきます。


ところが、今では遊具の安全基準が厳しくなり、自由に遊べる環境も減りました。転ぶ・ぶつかるといった「ちょっとした危険」も排除された結果、“感覚的な揺らぎ”を通して育つべき体幹が鍛えられにくい時代になったのです。


特に幼児期は、感覚統合の基礎を作る重要な時期です。バランスをとる、空間を感じる、体の傾きを認識する…といった動きの経験が少ないと、体幹だけでなく運動全体の質が低下してしまいます。


5. スポーツ=体幹が鍛えられる、とは限らない


最近では、小さな頃からスポーツを始める子も増えています。ですが、競技性の高いトレーニングばかり行っていると、体の一部しか使われない動きが習慣化してしまうこともあるのです。


たとえば、サッカーで蹴る動作ばかり、野球で投げる動作ばかりをしていると、全身を使ってバランスを保つような動きが足りなくなることがあります。


「スポーツをしているのに姿勢が崩れる」「転びやすい」という子どもは、動作のパターンが偏っていて、体幹の本来の安定力が発揮されていない可能性があるのです。だからこそ、基本的な体の使い方や軸の安定を学ぶ時間が大切になります。


6. 体幹の弱さの裏にある“発達の個性”


すべての子どもに同じような発達が見られるわけではありません。中には、感覚の過敏さや鈍感さ、神経系の未熟さが原因で、体幹をうまく使えない子どもも存在します。


こうした子どもたちは、運動そのものが苦手だったり、じっと座っていることに苦痛を感じたりするため、姿勢やバランスの崩れがより顕著に現れます。


しかし、それは「怠けている」「やる気がない」からではなく、体幹を支える感覚や筋力が育つタイミングに個人差があるだけということも多いのです。無理に矯正するよりも、遊びの中で楽しみながら鍛える工夫が求められます。


おわりに:子どもたちの“動きたい本能”を育てよう


体幹が弱いとされる今の子どもたちですが、それは決して「筋力が足りない」だけではなく、日常の中に自然と組み込まれていた“動く習慣”が減っていることが主な原因です。


つまり、特別なトレーニングをしなくても、日々の生活の中で「歩く・登る・跳ねる・転ぶ」といった動きを取り戻すことで、子どもたちは本来の体の力を取り戻していけます。


大人ができることは、「危ないからやめなさい」ではなく、「どうすれば安全に、思いきり動ける環境を作れるか」を考えること。


子どもたちがのびのびと体を動かせる環境こそが、体幹を育て、健康でしなやかな身体を作っていく第一歩なのです。

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