なぜ末續慎吾は「老い」に負けないのか?年齢に抗う走りの本質に迫る
- 森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
- 5月5日
- 読了時間: 4分
アスリートの世界では「年齢」がしばしば限界を示すラインとなります。特に陸上競技の短距離種目では、瞬発力と筋力のピークが若いうちに訪れ、30代半ばで第一線を退く選手がほとんどです。
しかし、そんな常識に真っ向から立ち向かう存在がいます。
200mで日本記録(20秒03)を打ち立てたレジェンド・末續慎吾さんです。
彼は40歳を超えてなお、軽快で切れ味鋭い走りを見せ、多くの若手選手と並走できるほどのスピードを維持しています。
では、なぜ末續慎吾さんは「衰えない」のでしょうか?
その秘密を、身体の使い方・運動理論・精神面など多方面から紐解いていきます。
■ 身体に“無駄がない”からこそ速くなれる
年齢とともに筋力や体力が落ちるのは当然のことです。
しかし、末續さんの走りにはエネルギーのロスがほとんど見られません。それは、筋力に頼るのではなく、身体全体の連動性や重心のコントロールに意識を置いた“洗練された動き”だからです。
フォームに無駄がない。姿勢が崩れない。力まない。それが、「少ない力でも最大のスピードを出す」ことにつながっているのです。
特に印象的なのは、上半身の静かさと下半身の滑らかさ。腕を大きく振り回すことなく、身体の芯を軸にして進むそのフォームは、年齢による体力の衰えをものともしない美しさがあります。
■ スピードの秘密は「力の抜き方」にあった
多くの人は「速く走るには力を入れることが必要」だと思いがちです。しかし、末續さんの考え方は正反対です。
彼はむしろ、「力を抜くこと」「自然な流れに任せること」に重きを置いています。
その代表が「反発の活用」。地面を強く蹴るのではなく、地面から返ってくる力(反発)を効率よく受け取り、推進力に変える。この走り方には、強靭な筋力よりも繊細な感覚とタイミングが必要です。
つまり、身体の“力み”を排除し、最小限の力で最大限のスピードを得るテクニックが、彼の年齢を超えた速さのカギなのです。
■ 「神経」の若さを保つ秘訣とは
加齢によって衰えるのは筋肉だけではありません。動きのキレや反応の速さに関係する「神経系」の衰えも見逃せない要素です。
しかし、末續さんはこの“神経の老化”にも対策を打っています。
それが、日々の細かいトレーニング──ステップワークや反応練習など、神経に刺激を与え続けるメニューを欠かさず行っている点です。
こうした“脳と筋肉をつなぐ感覚”を維持・発達させることで、動作のキレや素早さを失うことなく、走りのスピードを維持しているのです。
■ 年齢とともに進化する“自己観察力”
末續さんのもうひとつの強みは、「自分の体を知る力」にあります。
筋肉の動き、関節の角度、地面の接地感──。日々の走りの中で、自分の体の小さな変化に敏感に気づける力を持っています。
これにより、調子が悪いときも無理をせず、その日のコンディションに合わせて動きを調整できる。
無理をしてケガをするのではなく、身体の声を聞きながら丁寧に扱う。その積み重ねが、40代でも大きな故障なく第一線で走り続ける秘訣なのです。
■ 美しく走ることが“強さ”に直結する
末續慎吾さんは、自身の走りに“美しさ”を求めています。ただタイムを出すだけでなく、「しなやかで、見ていて心地よい走り」を目指しているのです。
なぜなら、美しい動きには無駄がないから。フォームが整っていれば、エネルギー効率もよく、身体への負担も少なくなります。
これは彼が培ってきた哲学でもあり、芸術的な側面さえ感じさせます。
速さと美しさは両立する──その証明こそが、末續さんの走りなのです。
■ 「年齢=劣化」ではなく「年齢=熟成」
多くの人が、年齢とともに「できないこと」が増えると感じる中で、末續さんはむしろ「できることが増えている」と語ります。
若いころには見えなかった身体の感覚、走りの理論、心の安定。これらが年齢とともに深まり、より高次元の走りに近づいているのです。
これはまさに、「走りの熟成」と呼ぶべき境地。
加齢を“衰退”ではなく“進化”として捉える──。その考え方が、末續慎吾というランナーの根底に流れているのです。
■ まとめ:走り続ける姿が私たちに教えてくれること
末續慎吾さんの速さは、年齢を超えた“奇跡”ではなく、日々の積み重ねと哲学によって生まれた“必然”です。
脱力・フォーム・神経・感覚・美意識・精神──そのすべてが融合した彼の走りは、私たちにこう語りかけているようです。
「年齢はただの数字。
進化を止めなければ、人は何歳でも速くなれる」
末續慎吾さんの走りは、すべての年齢層に勇気と希望を与えてくれます。
そして今日もまた、彼は進化を続ける走りを見せてくれるでしょう。
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