骨を動かすから筋肉がつく?筋肉を鍛えて骨を動かす?運動パフォーマンスが高まるのはどっち?
- 森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
- 7月13日
- 読了時間: 5分
骨を動かすから筋肉がつく?筋肉を鍛えて骨を動かす?運動パフォーマンスが高まるのはどっち?
運動において「筋肉が大事」というのは誰でも一度は聞いたことがあると思います。では、その筋肉はどうやってつくられるのか?
「筋肉を鍛えて骨を動かす」ことが当たり前だと思われがちですが、実は逆の考え方――つまり「骨を動かすから筋肉が発達する」というアプローチが、運動パフォーマンス向上において非常に重要だとする考え方もあるのです。
今回はこの2つの視点を比較しながら、「どちらがより運動能力を高めるか?」を深掘りしていきましょう。
【1】筋肉を鍛えて骨を動かす、という一般的な考え方
ジムに行って筋トレをする。ベンチプレスやスクワット、マシンでのトレーニングなどで筋肉に負荷をかけて、筋繊維を太くし、筋力を高める。
これはまさに、「筋肉を鍛えて骨を動かす」アプローチです。
筋肉は骨に付着しており、筋肉が収縮することで関節が動きます。つまり、筋肉が強ければ強いほど、より大きな力で骨を動かすことができます。その結果、速く走れたり、高く跳べたり、重いものを持てたりする。
この理論に基づけば、「筋肉を増やせば運動能力が上がる」となります。確かに、短期的にはそれでパフォーマンスが上がる場合も多いです。
しかし、ここには落とし穴があります。
・筋肉を意識しすぎると「動き」が固くなる
・筋肉はついたが、競技パフォーマンスには直結しないことがある
・「筋肉主導」ではなく「動き主導」の方が自然に体が連動する
つまり、筋肉だけを鍛えることが、必ずしも「使える体」や「競技力の向上」につながらないというケースが出てくるのです。
【2】骨を動かすから筋肉がつく、というアプローチとは?
一方で、もう一つの考え方が「骨を動かすから筋肉がつく」というものです。
これは、動き(モーション)を先に整え、正しい関節の使い方や重心移動を行うことで、結果として必要な筋肉が自然についてくるという理論です。
たとえば、歩く・走る・跳ぶ・投げるといった動作の中で、「骨の動き(関節の角度や方向)」を丁寧に操作しようとすることで、そこに関与する筋肉が自然と働くようになります。
この考え方のメリットは以下のとおりです。
・無駄な筋力を使わずに効率的に動ける
・自然な連動性(運動連鎖)が高まり、しなやかで速い動きが可能
・動きの中で必要な筋肉が刺激され、使える筋肉が育つ
つまり、「筋肉が主役」ではなく、「動きと骨の使い方が主役」になることで、筋肉は“副産物”として鍛えられていくという発想です。
これは、武道やダンス、伝統的な身体操法(日本の古武術やアレクサンダーテクニークなど)でも取り入れられている考え方でもあります。
【3】どちらが運動パフォーマンスに効果的か?
結論から言えば、運動パフォーマンスを高めたい場合、「骨を動かして筋肉がつく」というアプローチの方が圧倒的に効果的です。
もちろん、ある程度の筋力は必要です。しかし、筋肉だけを鍛えても、それを「正しく使える動作」が備わっていなければ、運動能力としては発揮されません。
具体的な例をいくつか見てみましょう。
◆短距離走の場合
筋トレで太ももを鍛えても、「股関節を速く動かせる」「骨盤を前に移動させられる」使い方ができなければ、スピードは上がりません。
一方、骨盤や背骨の動きから足を動かせる人は、自然と太ももの筋肉が活性化され、フォームも洗練されていきます。
◆サッカー・野球・バスケの場合
これらのスポーツでは「一瞬の加速」「方向転換」「姿勢保持」が重要です。
これらもすべて「骨の位置」や「関節の角度」が正確に制御されることがカギ。筋肉をいくら鍛えても、それをうまく連動させられなければ、思ったように動けません。
◆こどもの運動発達でも同じ
子どもが運動能力を身につけていく過程では、「遊びや動き」を通じて自然に骨や関節を動かす経験が重要です。
鉄棒・跳び箱・かけっこなど、体を使って遊ぶ中で骨が動かされ、その中で必要な筋肉が自然に発達します。
【4】骨を動かす感覚を育てるには?
「骨を動かすから筋肉がつく」とは言っても、どうすればその感覚を身につけられるのか?
以下のような方法があります。
●身体操作系トレーニング
・アニマルムーブ(動物のような動きで体を動かす)
・クロスクロール(左右の手足を交差させる動作)
・体幹主導のトレーニング(腕や脚より先に体幹を動かす)
●骨・関節の動きを意識する練習
・肩甲骨を回す
・股関節を中心に足を動かす
・背骨の柔らかい回旋運動
●「筋肉を意識しない」こと
重さを持たず、動きそのものを繰り返す中で「どこが動いているか」を感じるようにすることで、筋トレでは得られない“神経—骨—筋”のつながりが育ちます。
【5】まとめ|骨の動きが筋肉を育てる時代へ
これまでの運動指導では「筋肉をつければ速くなる・強くなる」と教えられることが多かったかもしれません。しかし、それだけでは本当の運動パフォーマンス向上にはつながりません。
「骨の動きが先、筋肉はあとからついてくる」
この考え方を取り入れることで、動きはより洗練され、必要な筋肉が“自然に、最小限の力で、最大限に発揮される”ようになります。
現代のスポーツ科学や身体感覚トレーニングでも、こうした「動き中心」のアプローチが注目され始めています。
筋トレは悪ではありません。ただし、「骨と動き」の感覚がない状態で筋肉だけを鍛えると、それは「使えない筋肉」になるリスクもあります。
あなたの運動能力を本質的に高めるためには、“動き”を大切にして、“骨を正しく動かすこと”を意識してみてください。
それが、結果として最も自然に、最も効率的に、筋肉を育てる方法でもあるのです。
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