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ボクサーの急性硬膜下血腫で相次ぐ死去。原因と防ぐための緊急対策。ボクシング界の緊急事態

  • 執筆者の写真: 森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
    森 雅昭(かけっこ走り方教室/体操教室枚方市/大阪/京都
  • 8月13日
  • 読了時間: 5分

近年、国内ボクシング界で試合後の重篤な事故が相次ぎ、観戦者と関係者に衝撃が走っている。2025年8月2日後楽園ホールの興行では、同一興行に出場した複数選手が試合後に急性硬膜下血腫で開頭手術を受け、その後に死亡するという前例のない事態が発生した。JBC(日本ボクシングコミッション)は事態の重大性を受け緊急会見を開き、原因究明と対応策の検討を宣言している。


■起きている事象の整理

報道によれば、同一興行で東洋太平洋タイトル戦などに出場した複数のプロ選手が試合後に急性硬膜下血腫で手術を受け、亡くなった例が確認された。国内では過去にも同様に試合直後に意識を失い硬膜下血腫で死亡する例や、術後に後遺症を抱える例があり、今回の連続事案は「偶然では片付かない」との危機感を業界に与えている。


■脱水・減量と脳損傷の関係(問題の可能性)

同時期の興行では、試合後に脱水症状で救急搬送された選手の報道も相次いでいる。減量に伴う極端な水抜き(急激な体重減少)や、十分な再水和が行われないままリングに上がることは、循環動態や血液粘度の変化を通じて全身臓器・脳への脆弱性を高める可能性が指摘される。JBCも過度な減量(=水抜き)を調査対象に含める考えを示しており、今回の事例で減量法の安全性が改めて問題視されている。


医療的観点から見ると、急性硬膜下血腫は頭部外傷後に脳表面と硬膜の間に血腫が生じることで脳圧が上昇し、短時間で生命に関わる状態に至ることがある。繰り返しの打撃(サブコンカッシブ・インパクト)や、直近の強い打撃が引き金となって発症する場合が多い。脱水や極端なエネルギー不足は脳の保護機構を弱め、出血の進行を早める可能性があると考えられる(直接因果を断定するには詳細な病理・臨床データが必要)。


■短期的に現場で確認すべき危険要因

1. 減量(特に試合直前の極端な水抜き)と再水和の不徹底。

2. 試合中・直後の頭部打撲や意識障害の軽視(観察不足)。

3. ラウンド数・ラウンド長(長いタイトル戦など)と累積ダメージの関係。

4. 興行ごとの医療体制(リングサイド医、緊急搬送の速さ、近隣の高度医療機関との連携)。

5. 過去の脳振盪や既往の頭部外傷の記録管理不足。


これらは単独で事故を起こすこともあるが、複合するとリスクを大きく高める。実際に最近の対応として、一部の団体が12回戦を10回戦に短縮するなどの変更を始めている。


■今後の対策(短期〜中長期)——実効性を重視して

以下は報道動向や医学的見地を踏まえた現実的な提案である。業界団体、ジム、選手、医療側が協働して実行可能な項目に絞った。

1. 減量ルールの見直しと監視強化


• 事前体重管理の厳格化(試合前日の体重・当日の再計量・試合当日の体脂肪・脱水マーカーのチェックなど)。

• 過度な水抜きの禁止または上限規定(例:直前の体重変動率の制限)。朝日新聞などの報道で示された「前日体重からの急激増減」を基にした明確基準の導入検討。


2. ラウンド数・興行形式の再検討


• 特に地域タイトルや東洋太平洋などの12回戦設定を見直し、ラウンド短縮や防御的ルールの導入(ダメージ蓄積を減らす目的)。実際に短縮を行った団体の動きが報じられている。


3. 医療・検査体制の強化


• 興行ごとの必須医師配置(神経外科が常駐できない場合も、迅速な搬送ルートと事前連携)。

• 試合後のスクリーニング(症状が出たらCT/MRI等で迅速に画像評価)。症状が軽くても、頭部打撲のあった選手には低い門戸で画像評価を行うプロトコルを整備する。JBCが大学や医療機関と協力するとしている点は重要。


4. コンカッション(脳振盪)プロトコルの厳格運用


• 試合中・試合後の簡易評価(神経学的スクリーニング)と、陽性時の一定期間の競技停止ルールを明確化。過去に脳振盪歴がある選手の出場制限や事前同意の徹底も検討に値する。


5. 減量・栄養・水分補給教育の徹底


• ジム単位での研修、選手への科学的な減量・再水和方法の普及(大学や専門医と連携したガイドライン作成)。JBCが大学と協力すると報じられている点は、こうした教育を制度化する第一歩となる。


6. データ収集と透明な検証プロセス


• 競技団体は選手の試合前後データ(体重変動、打撃記録、医療記録、画像所見)を体系的に集め、第三者混成の検証委員会で原因解析を行う。今回と同様の多発事案を「個別の不運」として片付けないためには、公正・透明な調査が不可欠だ。


■実行のための注意点と課題

• 負担と現実性:全選手に術前画像検査を義務付けるとコストと時間の問題が大きくなるため、リスク層に焦点を当てたスクリーニング方式が現実的。

• 文化的側面:減量文化や「極限で作る」美学は長年の慣習に根ざしており、ルール変更だけでは行動が変わらない。教育とインセンティブ設計が重要。

• 国際調整:国内ルールを変えても海外での慣行が違えば選手の移動によってリスクが持ち込まれる。国際団体とも協調する必要がある。


■結び:失われた命をどう生かすか

選手の安全を守るためには迅速な対応と長期的な制度設計が両輪で必要だ。今回の連続事故は偶発的事象ではなく、複数の因子(累積打撃、減量、興行構成、医療体制など)が重なって起きた可能性が高い。JBCが原因調査と対策検討を表明しているが、実効ある方策をどれだけ速やかに、かつ透明に実行できるかが問われている。最も重要なのは「勝利よりも命と健康を優先する」競技文化への転換だ。関係者が一丸となり、科学的データに基づくルール改定と教育、医療連携を進めることを強く求めたい。


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