久保凛選手の膝の使い方は何が違うのか?|トップスプリンターとの比較で見えるスピードの秘密
- 森 雅昭(スポーツ家庭教師/かけっこ走り方教室/体操教室枚方市)
- 5月4日
- 読了時間: 4分
注目を集める若手スプリンター・久保凛(くぼ りん)選手。彼女の走りには、「伸びやかなフォーム」「柔らかい動き」「接地のスムーズさ」など、様々な魅力がありますが、専門家の間で特に注目されているのが「膝の使い方」です。
この記事では、久保凛選手の膝の動きにフォーカスし、他のトップスプリンターと比較しながらその特徴と速さの秘密を解き明かしていきます。
1. 久保凛選手の基本フォームと膝の特徴
まずは久保選手の走りの特徴を整理しておきましょう。
• ストライドが大きいが、上下動が少ない
• 接地から膝がスムーズに抜ける
• 膝関節が柔らかく、リラックスした中にしっかりとした強さがある
動画などを見ると、彼女の走りはとにかく「自然体」であることがわかります。力で押すというより、バネのように軽やかで効率的。この中で重要な役割を果たしているのが「膝の柔らかさと連動性」です。
2. 他のトップ選手と比べた膝の使い方
A. 山﨑佳子選手(パワフル型)との比較
山﨑佳子選手は、筋力を前面に出した力強い走りが持ち味で、接地で一気に地面を押して加速します。このとき膝関節は比較的「固定」に近く、筋力で支える形になっています。
一方、久保選手は膝をしなやかに使っており、「受け流す→跳ね返す」動きに近いのが特徴です。これにより地面からの反発を無駄なく活用できており、筋力に依存しすぎない効率のよい加速が可能になっています。
B. 市川紗希選手(コンパクト型)との比較
市川選手は、ピッチ(回転数)重視でテンポよく足を運ぶタイプ。膝の使い方も小さく、地面からの反発よりも自力の蹴り戻しが主です。
久保選手はストライドも大きく、膝の可動域も広いです。**「地面に力を伝える→すぐに抜く」**という一連の流れがスムーズで、体幹と下肢の連動が非常に高いです。
3. 「膝が抜ける」という動作の重要性
久保選手の走りを見ていると、「膝の抜けの良さ」が際立ちます。これはどういうことかというと、
• 接地後、膝がロックせずにスムーズに曲がり、次の動作に移る
• 地面を蹴った後、膝が自然に前方へ流れていく
• 膝関節で力を止めないから、無駄なブレーキがかからない
という動きです。多くの若い選手が「地面を蹴って走る」と考えがちですが、それでは膝に力が入りすぎて、力の流れが止まってしまいます。
久保選手のように、膝をあくまで「連動するジョイント」として使い、力を地面に伝えたあとはすぐに抜く動きができれば、スピードは自然と高まっていきます。
4. 映像分析で見る膝の角度の違い
ある走行分析映像(100fps)を参考にすると、久保凛選手の膝の特徴がデータでも確認できます。
• 地面に接地する直前の膝角度
→ 約160度:やや伸びているがロックはしていない
• 接地直後の膝の沈み込み
→ 約145度:バネのように吸収できている
• 蹴り終わりの膝角度
→ 約170度:完全には伸ばさず、すぐに抜ける準備ができている
対して、他の力任せタイプの選手では、
• 接地時に膝がロックされる(160度→160度)
• 反発が吸収されず、足がブレーキになってしまう
という現象がよく見られます。これでは加速の連動性が失われてしまうのです。
5. 膝だけじゃない、股関節と体幹の連動もカギ
もちろん、膝の動き単体ではなく、それを支える股関節の柔軟性や、体幹の安定性も久保選手の魅力の一つです。
特に、
• 腰が落ちず、骨盤が前傾を保てている
• 股関節から脚がスッと前に出てくる
• 膝が自然とその延長線上で前に出てくる
このような流れるような動きが、膝関節の“しなやかな使い方”を可能にしていると考えられます。
6. 久保選手の膝の使い方から学べること
特に中高生のスプリンターや指導者にとって、久保選手のような走りから学ぶべきポイントは多くあります。
• 膝を「固める」のではなく「連動させる」
• 力で押すより、反発を受け流す意識
• 接地から蹴り出しまで一連の流れでスムーズに動く
これらはすべて「膝の抜け」に集約されます。練習では、
• もも上げドリル(スムーズな引き上げ)
• バウンディング(連動した力の発揮)
• 片脚スクワット(関節の安定性強化)
などで、膝を中心とした動きの感覚を磨くことが大切です。
まとめ:久保凛選手の膝の使い方は「スピードを引き出す鍵」
久保凛選手の速さの秘密は、筋力やパワーだけではなく、「いかに効率よく力を流すか」という点にあります。その中心にあるのが、しなやかで連動性のある膝の使い方。
他のトップスプリンターと比較することで、その滑らかな動作の価値がより際立ちます。これからさらに世界の舞台で活躍していく彼女の走りに注目しながら、我々もその技術から学び、自身のパフォーマンスに活かしていきましょう。
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